
病院・医院・クリニック
“新しい病院のカタチ.”
私たちが目指す設計は「デザインやコンセプトが明確な病院」設計です。私たちは医療の特色や診療ポリシーを表現し、医療の方向性を体現する媒体としての病院、そのための病院のデザインはどうあるべきか…を日々問いながら設計をしています。だから私たちの病院設計デザインはそれぞれに個性的です。
木石舎の作品にワンパターンの四角いハコの建物はありません。それは、与えられた条件がそれぞれ異なるように、その機能やデザインにもそれぞれに見合った解決法があり、それを追求しながら様々な方策で解決しているので、四角い箱には馴染まないからです。
病院・医院計画の具体的な考え方と計画
◆アプローチ、外構計画
分かり易いアプローチが大切です。濡れずに入れて車椅子でも入り易い大きなキャノピーも欲しい。そしてできれば駐車場と病院本体の間には緑の緩衝地帯があれば、訪れる患者さんもホッとし緊張感もほぐれます。
◆玄関ホール、受付、待合スペース
入口からすぐ目につき、わかり易い所に欲しい。カウンターにはバッグなどをちょっと置ける工夫も必要。わかり易いカウター区分も欲しい。ゆったりしたソファーが良いが、足腰の悪い人のための立ち上がり易いタイプも必要。
診察を待つ人、会計の人、投薬の人など行為の区分に対応できていると混乱しない。特に待合スペースは最初にその病院の印象を決めるところであるので、デザインには特に力を入れたいところ。色彩、質感、素材感、広がり、明るさなどのほか分かりやすさも大切。何しろ病院の第一印象はここで決まるので、スタッフの対応もとても重要です。
◆手洗い・トイレ
待合に隣接し、分かりやすく、直接に中が見えない工夫が必要。もちろん換気などは十分に取ること。トイレの中は使い易いレイアウトであることが必須です。
◆診察室
診察室にはほぼ定型がある。裏動線との調整も大切になる。プライバシーの扱いがこれからは重要視されてくるはず。素材感は優しく温かい感じが望ましい。
◆処置室
患者さんにスタッフつねに出入りが頻繁に行われる。病院交通の要地でもある。そのため処置のプライバシーとのせめぎ合いになる。大きな病院などでは中央処置室という形で診察エリアとも離れて設置される。
◆点滴室
これも大病院では診察エリアとは離れて設置されることが多い。診療所規模ではスタッフの目につき易い位置関係に欲しい。
◆検査室
診療所規模であれば主要な診療科目によって診察との位置関係が変わってくるので注意したい。病院規模では別位置にかなり大きく占めることになるが、検体検査のほか特殊な検査装置(X線,CT,MRI)などもあり大きな部分も必要となる。
ここで注意しなければならないことは、検査機器などは技術革新が目覚ましくつねに新しい機器との更新が考慮されていなければならないことだろう。更新が必要となった場合の建築的な配慮や特に構造的な対応が可能かなど、当初からの計画が必要となる。
病院空間イメージ総論
さてそれでは総論として、どのような病院が望まれるのでしょうか?
ここでは、病院(医療施設)建築としてのイメージ的な観点から述べていきます。
まず①分かり易いこと。
患者さんは自分のことで頭がいっぱいです。直感的に理解できる空間構成は何より大切なことです。
そして②病院臭くないこと。
この病院臭くないことには二つの意味があり、物理的な意味での臭気が臭わないことは第一条件(必須条件)です。またイメージとしての「病院臭さ」とは何でしょうか?いわゆる真っ白な壁に無機質は素材感、流動感のない配置やしつらい・・・等々あります。無機質に傾かず、明るく分かり易い色使いは大切です。
さらに③光溢れる空間が欲しい。
患者さんのともすれば暗くなりがち。そんな気分を少しでも明るくしたい。
以上3つは病院設計のなかでも特に忘れてはなりません。トップライトやハイサイドライトなど建築的な工夫もいろいろあります。
また病院はハンディのある方々が多いのですから、つまづき引っかかるようなもの突起のあるものは禁止です。滑らず動きやすい素材を選びましょう。
大きく以上のことを忘れずに計画しましょう。
市川氏と佐々野氏 病院設計についての対談

市川 清貴氏(左) 1951年福岡県生まれ 大学卒 志賀設計勤務後 1998年 市川建築設計設立
病院設計についての対談
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- 設計の「メインコンセプト」について
佐々野:デザインの「手がかり」をどう見つけるのでしょうか?市川さんは医療福祉建築畑ではかなりのベテラン設計者でいらっしゃいますが、まずある計画があるとして、そのメインコンセプトをどう見つけられますか?
市川:建物として、どう構えてどう導入するか?建築の正面性をまず考えます。それと周りの環境とどう関わるのかを特に気をつけています。そしてそこから順を追ってどういうエントランス?それからホールへと順次お聞きしながらイメージを作っていきます。
佐々野:まず建物の正面性から考える、ということですね。デザインの手がかり・・としてはかなり具体的かつ実際的なアプローチと思います。私であれば、クライアントのこの建築に対する大きな目的は何だろうか?をまず大きく紐解こうと考えるところでしょうね・・
- 設計の「メインコンセプト」について
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- その「手がかり」からイマジネーションをどう展開していくのでしょうか?
市川:病院や医院であれば、建物に入りエントランスからホール、そして待合へと自分で実際に入っていく順にイメージを展開していきます。やはりホールは大きな窓があり、吹き抜けで開放感が欲しいとか・・そこに身を置くイメージで展開します。実際の作業ではクライアントとの対話の中で詳細なイメージは展開していくことが多いようです。その中でコンセプトが明確になる場合もある。インスピレーションが湧くケースはとても面白い。
佐々野:そこらへんも大変実務的でいらっしゃいますね。私なんかは設計の構成要素の配置や重なりでどう建物が構成されるのかを色々とスタディします。こうしていると時間もかかってしまい・・これが困りものですが・・それからクライアントと対話していくことになります
- その「手がかり」からイマジネーションをどう展開していくのでしょうか?
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- デザインの目的とは何だろうか?
市川:病院建築の場合は特に、落ち着きや優しさあるいは安心感が大切な要素でありますから、そういった雰囲気を醸し出すようなデザインは重要になるし、そのヒエラルキー構成も重要になります。さらに空間的にいえば、大きな吹抜けがあって、その先に少し天井の低い落ち着いた待合がある・・というような空間的なしつらえも大切でしょう。そんな空間要素がそこで「落ち着き」や「安心感」を引き出せれば嬉しい。
佐々野:そういったことは空間の構成や流れ方によってデザインがその空間にいる人をどう触発、誘導していくか・・に繋がりますね。これが先ほど市川さんが言われたヒエラルキー構成が重要になる所以です。こういった情緒を含めた行動の触発はデザインの大きな目的の一つでしょう。
- デザインの目的とは何だろうか?
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- 心地よいデザインとは
市川:医院、病院建築の場合は、だんだんと奥の空間に進むにつれ空間のイメージから機能が優先された空間になっていくように思います。これは病院という性格上どうしても仕方のないことのように思います。そこまで空間の機能とデザイン的なイメージを考慮された病院があれば良いのだが、そこまでの完成にはまだ出会っていないように思う。いづれにしろ医療施設であれば、患者さんの心のありようを察したデザインを考えることが「心地よいデザイン」であることは間違いのないことでしょう。
佐々野:確かにおっしゃる通りですね、病院建築は医療機関としての厳然たる役目がありますから、どうしても診療空間は医療行為に適したふさわしいしつらえを持たねばなりません。私たち設計者のできることはその可能な範囲の中で、できる限り患者さんい寄り添った視点を代弁しながら、望ましい空間のあり方をクライアントとともに探っていくことになるわけです。
- 心地よいデザインとは